Rethinking Paper Rinsing:ペーパーリンスを考える。

Rethinking Paper Rinsing:ペーパーリンスを考える。

Rethinking Paper Rinsing:ペーパーリンスを考える。

 

ペーパーリンスとは、コーヒーを抽出する前のペーパーフィルターにお湯を通す工程を指します。一般的には「紙の匂いを取り除く」「器具を温める」などの目的で行われます。

ただ、ペーパーリンスは必須の工程では無いため、目的に応じて行うかどうかを判断します。

 

 

THE WORD COFFEEでは意図的にペーパーリンスを行っていません。

理由としては、検証を重ねた結果、THE WORD COFFEEの理想とするCoffeeが表現できうるのは現状、リンスを行わない方法だと考えているからです。

 

まず前提として、THE WORD COFFEEでは

・ペーパーは酸素漂白済みで、匂いがほぼ無いものを使用(THE WORD COFFEEでは、CAFECアバカペーパーフィルターを採用しています)。

・ドリッパーは安定した湯温で抽出できる、熱伝導率の低い樹脂製のV60を使用。(樹脂製以外のドリッパーを使用する場合や、サーバーが冷えている場合は温めます)

THE WORD COFFEEが公開しているレシピは、樹脂製のHARIO V60ドリッパーと、漂白済みのペーパーの使用を前提としているので基本的にリンスは行わなくて良いのですが、HARIO SWITCHドリッパーやMUGENドリッパー、その他の器具の場合など、必要に応じてリンスを行います。

 

 

では、ペーパーリンスの有無で具体的にどのような違いや影響があるのか、様々な研究、考察を基に詳しく考えていきましょう。

 

 

味わいの違い

一般的に、リンスをした場合はクリーンでキレのある酸味の液体に、リンスをしない場合はボディ感があり、穏やかな酸味の液体になる傾向があります。

 

 

味覚への影響から考える

リンス有り=クリーンで酸味が立つと感じるのは、オイルの透過量の違いに加えて、味覚のバランスに関わる科学的な理由があります。

 

1. オイルによる味のマスキング効果

コーヒーオイルは口の中で膜のように広がり、苦味や酸味をやわらげる役割を持ちます。

リンス有り → オイルが抑えられ、酸味がストレートに感じられる。

リンス無し → オイルが多く溶け込み、酸味やシャープさが穏やかに感じられる。


2. クリーンカップ効果

ペーパーにオイルや微粉がキャッチされることで、抽出液はより透明感のある味に。

他の風味要素が減ると、相対的に酸味を感じやすくなる。

つまり「酸味が増す」というより「他の要素が減ったことで酸味が引き立つ」。

 

3. 口腔内での滞留時間の違い

オイルが少ない液体は水溶性成分が直接舌に触れるので、酸味との接触が早い。

そのため「鋭く酸味が来る」と感じやすい。

オイルが多い液体は舌の上で広がりが遅く、味覚の立ち上がりが穏やか。


→結果

リンス有り → オイルが減り、液体がクリーンに。酸味が前面に感じられる。

リンス無しオイルが多く、酸味はマイルドに、ボディ感はより強調される。

 

 

更に詳しく考えていきましょう。

 

 

表面張力とペーパーの初期浸透から考える

1. リンス有り=クリーンになる理由

ペーパー全体にすでに水の膜が張っている。水膜は「連続的な親水環境」を作るので、後から来るコーヒー液は同じ経路(水の通り道)に引き寄せられる。油分はこの水の膜でブロックされ、紙に吸着されたり、ドリッパー内に残りやすい。

→ 結果

ペーパー全体が「水の壁」になり、油は透過されにくくなる。→ 水でコントロールされた単一経路=クリーンな味。

 

2. リンス無し=ボディ感が出やすい理由

ペーパーは乾燥状態。繊維の隙間には空気が残っている。コーヒー液が触れるとき、表面張力の違いで「水は水の好む隙間へ、油は油の入り込みやすい隙間へ」と分かれる。この「分岐点」で油の通り道が確保され、抽出液により多くのオイルが混ざる。

結果

ペーパーの繊維がまだバラバラな状態で、液体の最初の流入時に「選択的な経路」ができる。これによって、オイル分が微量ながら抜けて一緒に抽出液へ流れ込みやすい。表面張力の差で複数の流路(水+油)ができ、オイルが抜けやすい=ボディ感が増す。

 

実際、分析ではリンス無しの方が脂質成分(トリグリセリドなど)が高くなる傾向が報告されています。

また、抽出初期は酸味成分が主に抽出されますが、リンス有りの場合は水膜の影響により酸味成分はそのまま直線的に抽出され、リンス無しの場合はペーパーの繊維にある程度吸われるため、リンス有りより無しの場合の方が酸味成分の抽出量が比較的少なくなると考えられます。

 

 

リブの密着性について

 

ペーパーリンスを行う目的の一つとして、ドリッパーへのペーパーの密着性を高めるため、という意見も多く聞かれますが、HARIO V60ドリッパーのように高いリブを持つ構造のドリッパーは、ペーパーとドリッパーの間に隙間を作り、空気や抽出時に発生するガスを逃し、抽出の流量を安定させる事が本来のリブの役割、目的です。

V60のようにリブの高いドリッパーに関しては、ペーパーの貼り付き加減による抽出への影響はあまり無いと考えています。

実際、最近ではペーパーがリブに密着しすぎないか、殆ど触れないドリッパーも多く開発されていて、競技会等でそのようなドリッパーを使用したバリスタが受賞する例も少なくありません。

一方で、MUGENドリッパーのようにリブが殆ど無い特殊な抽出設計のドリッパーであれば、ペーパーリンスは当然した方が良いでしょう。

 

 

結論

ペーパーリンスを行うか否かは、ペーパーの匂い等を除去する目的以外に、どのような味わいのCoffeeを求めるか、表現したいかで判断する事ができる

 

上に記した通りリンスの有無によってフレーバーの出方が異なるという事実を考えた結果、どちらが味覚に合うか、または表現したいCoffeeの味わいに近いかで、リンスを行うかどうかを判断するという考え方や視点が得られることでしょう。

 

 

THE WORD COFFEEの焙煎のアプローチや抽出レシピの構成、コンセプトを加味した上で、上述した通りV60を使用することを前提として考えた場合、求める理想のCoffeeを表現するに、ペーパーリンスを行わない方が最適だと考えています。

 

長くなってしまいましたが、少しでも参考になれば幸いです。


Summary:How to brew:THE WORD COFFEE/レシピ集

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参考、一部引用元

1. ペーパーフィルターの構造と親水性

コーヒーフィルターは主にセルロース繊維でできていて、強い親水性を持つことは材料工学や食品工学の文献で共通の知見です。

 参考:食品包装用紙に関するセルロースの親水性研究(Carbohydrate Polymers など)

2. コーヒーのオイル捕捉に関する研究

ペーパーフィルターはコーヒー中のリピッド(油分)を顕著に減らすことが複数の論文で示されています。

 参考:Gross, G. et al., “Cholesterol-raising factor from coffee beans” (J. Lipid Res., 1997)

この研究では、ペーパーフィルターがカフェストールなどの油分をほぼ除去することを報告。

3. 浸透と表面張力の影響

繊維材料に液体が浸透する際、液体の表面張力・粘度によって「どの経路を優先的に通るか」が変わるのは毛細管現象の基礎研究で広く知られています。

  参考:Washburn, E.W. (1921). “The Dynamics of Capillary Flow”. Physical Review.

4. リンスの効果に関する実用的知見

専門書やバリスタ向けガイドでは「リンスによってクリーンになる」と書かれるが、その背景は「紙の風味除去」だけでなく「水の膜によるオイル遮断」が理由の一つと考えられています。

 参考:Scott Rao, “The Coffee Brewing Handbook”他

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