
V60 vs V60 NEO
V60 vs V60 NEO
V60とV60 NEOの違いについて
今回は従来のV60と、 SCAJ2025にて新たにリリースされたV60 NEOドリッパーについて、構造の差異や、抽出特性、風味の違い等を考えていきます。
結論から述べると、V60 NEOは過抽出になるリスクが低く、抽出速度も速いため、従来のV60ドリッパーよりメッシュ(挽き目)を細かくすることができ、結果としてTDSが高くても雑味がなく、クリーンでコンプレックスな抽出が可能なドリッパーである、と考えられます。その理由を詳しく解説していきます。
V60とV60 NEOにおける構造差と抽出特性
HARIO V60 NEOは、従来モデルと比較して内部構造に大きな差異があります。この構造的違いが抽出特性やTDS(TDSについては後述)に影響を与えます。
ドリッパー構造の比較と特徴
リブ(内側突起)の形状・配置
V60:底部まで均一に広がる太めのスパイラルリブ
V60 NEO:上部は細く72本、底部で9本に集約される極細リブ
材質
V60:陶器・ガラス・プラスチック
V60 NEO:薄肉トライタン樹脂(熱伝導抑制・軽量化)
抽出口形状
V60:円形の大きめの穴
V60 NEO:精密に設計された小穴で高速透過を促進
粉層への湯の分布
V60:中心寄り。チャネリングが発生するリスク
V60 NEO:均一な湯分布で局所的な過抽出を低減
熱保持性
V60:高め(陶器・ガラスの場合)
V60 NEO:低めだが温度変化が安定しやすい
・前提として、この構造差の理解が、挽き目・粉量・注湯スピードを調整する上で重要な基礎となります。
更に考えていきましょう。
V60とV60 NEOにおける挽き目・抽出構造とTDSの関係
コーヒーの抽出において、挽き目とドリッパー構造はTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分/溶存成分濃度)や風味、質感等に大きく影響します。従来のV60とV60 NEOでは上に記した通りの構造的差異があり、それぞれ抽出挙動に特徴が見られます。
挽き目と抽出抵抗の基本原理
• 細挽き:粉の表面積が増加し、水との接触面積が大きくなるため成分抽出速度が上がる。一方で、粉層の透水抵抗が増し、従来のV60では局所的な滞留やチャネリングのリスクが高まる。
• 粗挽き:透水抵抗が低く、湯は速やかに通過するが、可溶性物質の抽出効率は低下しやすい。
V60 NEOの構造的特徴と抽出効率
• 極細で多重なリブ
上部72本の極細スパイラルリブが空気とガスの抜けを促進し、液体が多重なリブを伝い、効率よく抽出が進む。リブは底部で9本に集約され、湯が均一に分散。粉層への局所的圧力や滞留を最小化することで、局所過抽出のリスクを低減。
• 薄いトライタン素材
熱伝導性を抑えつつ、抽出中の温度変動を最小化。温度低下による抽出効率の変動を抑制し、均質なTDSを維持。
• 高速な透過設計
湯の抜けが速く、クリーンカップを得やすい。従来のV60に比べ、注ぎ手による流速調整の影響が軽減され、再現性の高い抽出が可能。
この構造により、NEOは「高速透過 × 均一分布」の組み合わせで、TDSが高めでありながら雑味の少ない抽出が可能になります。
焙煎度によるTDS変動のメカニズム
• 浅煎り
密度が高く細胞壁がしっかりしているため、粉の透水抵抗は高く、細挽きにすることで十分な溶出が可能。酸やフルーティーな成分が顕著に抽出される。
• 中煎り〜深煎り
焙煎による多孔化で内部ガス(CO₂など)が残留し、水の浸透効率が相対的に低下。糖や酸の分解により、溶出可能な成分量は減少し、TDSは浅煎りより低下する傾向がある。しかし、NEOでは構造的に均一浸透が促進され、深煎りでもTDSの低下幅は緩和されつつも、抽出成分の幅は広いため、重層的な味わいに。
まとめ
V60 NEOは、従来のV60に比べて雑味が出にくく、抽出できるフレーバーの幅も広い
V60 NEOは構造的に高速かつ均一な透過を可能にする設計で、従来のV60より再現性が高く、雑味が少ない抽出を得やすいのが特徴です。焙煎度によるTDSの変動はNEOでも残りますが、粉全体への均一浸透により浅煎り〜深煎りまで安定した抽出が可能です。構造による安定性・均一性を重視した設計思想が、NEOの最大の差異と言えます。
V60 NEOは、THE WORD COFFEEが公開している、従来のV60向けレシピとも相性が良く、NEO用にメッシュを少し細かめにする事で、より風味が引き出せることと思います。
とは言え、Coffeeに求める味わいは人それぞれ。日によって、気分によって、あるいはCoffeeによって、V60とV60 NEOを使い分けてみるのも楽しいかもしれません。
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TDSについて
SCAの最新の「Golden Cup」基準では、TDSが1.15%から1.55%、EY(抽出収率)が18%から22%の範囲であることが推奨されています。また、最近の研究では、EYが20%から24%の範囲で好まれる傾向が示されており、従来の基準が再評価されています。
これらの変化は、ドリッパーの構造や抽出器具の進化によって、より均一で効率的な抽出が可能となり、従来の22%というEYの上限が再評価されているためです。これにより、TDSの値も上昇し、より多様な風味特性を引き出すことが可能となっています。
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参考文献
V60 Pour-Over: History, Science & Flavor
Discrimination of Filter Coffee Extraction Methods of a Paper Filter
Study on coffee flavour of various pour-over brews
SCA Standard 310-2021
https://coffeegeek.com/wp-content/uploads/2023/10/SCAGoldCupStandard.pdf
Understanding TDS in Coffee: How It Impacts Flavor and Quality
What are the SCA’s Ideal Cup Standards?
https://etkincoffee.com/blogs/news/what-are-the-scas-ideal-cup-standards-and-how-to-achieve-them